「アイアムアヒーロー」という漫画を先日読み終えました。実写映画化もされいるのでご存知の方も多いでしょう。ぼくも知ってはいたものの、積極的に読む気が起きずスルーしていました。なぜなら怖いからです。血まみれのゾンビが群れを成して襲ってくるお話なんて恐ろしいじゃないですか。昔遊んだ「バイオハザード」というゲームが怖すぎて、パニックホラーというジャンルが苦手になってしまったのです。パニックな上にホラーって。単体でも十分怖いものを足してしまっているのだからもうお手上げです。しかし友人に強くおすすめされたので頑張って読んでみました。
端的に感想を言うと、めっちゃ面白かった。もちろん物凄く怖い漫画です。しかしそれを上回る、早く続きが読みたい感が掻き立てられるお話でした。以下ネタバレがあります。
あらすじは、現代日本を舞台にした物語で、人々が謎のゾンビとなって生きている人を襲って食い始めるというものです。主人公は35才のしょぼくれた漫画家。鳴かず飛ばずの冴えないヘタレ男です。その主人公が趣味で所持していた猟銃を武器に、ゾンビと闘いながら生き抜く様を描いています。
何が怖いって絵が怖い。とてもリアルで生々しくグロテスクな絵がこれでもかと出てきます。よくこんなもの描けるなというレベルのおぞましさですよ。そして舞台が日本であることが、怖さをより身近に感じさせます。外国の洋館やお城や豪華客船ではなく、その辺の街並みを丁寧に描いており、襲ってくるゾンビ達もよく見かける主婦やサラリーマンといった現実味のある姿です。さらに恐ろしいのは、ゾンビに噛まれたりするとあっという間にゾンビ化が感染するという点です。さっきまで健康だった人間が感染し、徐々に自我が崩壊していくシーンとかもう勘弁してください状態です。ほんと怖い。
ただ怖いだけでなく、様々な描写が細かくリアルに描かれているところも面白かったです。猟銃の扱い方やお手入れのシーンが丁寧に説明されていたり、心肺蘇生で肋骨にヒビいったり、身近なものでゾンビと対抗する武器や罠を作ったり、銃弾がなかなか命中しなかったりなどが地味に面白いです。バイオハザードのようにロケットランチャーを派手にぶっ放すのも楽しいですが、実際はこうなるだろう感が色々なところに散りばめられていて感心させられます。
登場人物達に関しても、とても生々しさを感じました。いわゆる正義の味方的なキャラクターがほぼ出てきません。ほぼ全員利己的で、ヘタレで、ずる賢く、嫌な奴ばっかりです。しかし不思議なことに、こんなやつゾンビに食われちまえ!と思う人物はあまり多くありません。これも、現実にパニックが起こったら人はこうなるのかもしれないというリアリティを持った作品だからそう感じさせられるのだと思います。
物語の佳境に入ると、何やら単純なゾンビものではなく、壮大な陰謀やら計画のようなウラがあることを匂わせ始めます。ゾンビ達もその姿を変え、最早人間の姿をしていないものが現れ始めます。その姿から、ぼくの大好きな漫画「AKIRA」を髣髴とさせられました。空間を超越したコミュニケーションも、すごくわくわくしました。
終始絶望感が漂う世界で、人間らしい弱さや醜さや強さや美しさを見事に描いた傑作だと思います。
いやー面白怖かった。しかし色々とわからないことだらけで終わった感があります。どんな作品でも、ぼくの知能では一回読んだだけでは理解しきれないということがよくあります。気になってインターネッツで調べてみると、どうやらだれもわかっていないということだけがわかりました。というのもこの作品、かなりの部分の説明をしないまま終わっているのです。ゾンビ化の原因は何なのか、なぜパニックが収束したのか、ヒロインはどうなったのか、主人公はなぜ禿げたのか、、、。なるほど謎を謎のまま終わらせる系ですね。それならそれで全然かまいません。むしろ事細かに全容を明らかにされたら、興ざめというか恐怖感が薄れるというか蛇足な気もします。どちらかというと好きな終わり方と感じましたが、インターネッツでは賛否あるようです。てゆーか否の方が多そうです。確かにあのゾンビが何だったのかという興味はありますし、それを説明するネタばらし回があれば是非見たいとも思います。
しかし前述したとおり、全てを明かされることでかえってチープな印象を与えられる気もします。ぼくの大好きな漫画「寄生獣」も登場する怪物の正体は謎のままで一切の説明がされていません。
描かないということは、きっとそれは重要ではないのでしょう。逆に描かないことこそが重要なのかもしれません。
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